モノ作り日本の崩壊(電子立国日本の自叙伝 放送30年)

NHK「電子立国日本の自叙伝」が放送されたのは30年前の1991年です。当時私は半導体業界向けの商社に入社し子会社で洗浄装置を担当したばかりでした。30年後の今、当時の私に声をかけるとすれば「あなたの観たその誇らしい放送は既に崩壊の序章だったよ」ということです。放送により今でも日本が電子立国であるかのように錯覚している人もいるかもしれません。

しかし今、正しい日本の姿を描くならばそのタイトルは「電子立国日本の遺書」「モノづくり日本産業の崩壊」というものではないでしょうか。少なくとも私の立ち位置からはそう見えます。しかし気が付いていない人があまりに多い。社員さえ読まないこのブログにたどり着いて拙文に触れていただいた方に考えるヒントになれば幸いとこの記事を書きます。毎回申しますように私は学者ではありませんし専門知識もありません。正しくはご自分でファクトチェックした上でご判断ください。

私は根本的に「明治人最強」を説きます。これは渡辺京二著「逝きし世の面影」にもある幕末から明治に日本に訪れた又は居住した多くの西洋人によって滅亡した江戸の文明を上書きした富国強兵の明治という視点からです。文明は滅びても文化は残ったが「古い日本は死んで去ってしまった、そしてその代わりに若い日本の世の中になった」(チェンバレン1873-1911年の間日本に居住)「明日の日本が外面的な物質的進歩と革新の分野において、今日の日本よりはるかに富んだ、おそらくある点でより良い国になるのは確かなことだろう。しかし昨日の日本がそうであったように昔のように素朴で絵のように美しい国になることはけっしてあるまい」(ウェストン1925年著書より)素朴で絵のように美しい国というのは著者の渡辺京二氏もいうように景色だけのことではなく民族の心性も含んだ意味だと思いますがこれはあくまで100年前のことです。しかしヒントになります。

なぜこの話なのかというと日本の産業構造を考えたときに以下のような流れがありました。

  1. 「江戸時代から明治維新を経て明治時代になった」富国強兵産業期(鉄鋼・造船・紡績・軍事)

  2. 「戦後昭和の経済復興」勤勉と安価な人件費による復興貿易期(鉄鋼・造船・紡績・内需)

  3. 「昭和の技術立国化」外国からの技術を深化させて自国技術として確立(自動車・電子・内需)

  4. 「平成の失われた30年」グローバル化戦略の誤り

  5. 「現在の国内産業の衰退」将来への備えを怠った付けを払う時代の始まり

これらの流れの間には都度、過去の文明を変えるほどの変化があり明治維新や敗戦、バブル崩壊などの大きな事が起こった時には人々は実感しますが④⑤(コロナ問題は進行中ですが)に関してはその変化に気づいていない人が多いようです。文明が変わっても残った日本人の文化や心性までも廃れてしまう懸念をもっています。

明治維新の志士は大国清が列強に翻弄されるのをみて国家構造を変えて対応しました。その手法が正しかったかどうかは分かりませんが、変化しなかったならば日本は列強に取り込まれていたでしょう。独立を保ったのです。Chinaは常に世界をリードしていましたがアヘン戦争以降ほんの200年、蓋をされていたにすぎません。今は共産党の国。自称「中華人民共和国」建国100年です。新しい国ですがかつての大国としての復興を目指しており、いよいよ実現が目の前になってきました。

日本に目を移しましょう。多くの人が何故気づかないのか。冷戦時にスイス全国民に配布された「民間防衛」という書にヒントがあります。兵器を使わずに他国を支配することが近代の戦争なのです。紛争を作ってしまって相手に警戒されたら侵攻がうまく進みません。相手に気づかれないように考えないように徐々に入り込んで支配国に依存しないと生きられないようにした時点で戦争完了です。

日本人の多くが気付いていないこと。先に挙げたように「今でも先進国であるかのような錯覚」Chinaや韓国をはじめとするアジアの国々が「日本より遅れている国であるという錯覚」「今までの生活水準が将来も保てるという錯覚」私の立場から目を覚ます皆さんのよく知っている簡単な事例をいくつか記します。専門家はそんな事十分承知というでしょう。間違った見解と言われるかもしれません。しかしこれが今の私の社会人としての肌感覚です。

【内需では経済が成り立たない】
よく言われるように日本には資源がありませんからモノ作りに支えられています。自国で持っているのは「製造技術」と「労働力」でした。(過去形)原材料は輸入です。人口増加が一定規模で保たれれば内需の期待もあります。しかし少子化人口減で革新的な商品が日本から生まれないと国内循環でビジネスが成り立ちません。輸出するしかないのです。

【完成品で輸出できるものが少ない】
メイドインジャパンの信用力はわずかに残っています。かつてはテレビ、冷蔵庫、洗濯機をはじめ家電は日本で作っていましたが今ほとんど海外生産です。パソコンや携帯電話やLED照明器具も日本製がありましたが瞬く間に衰退しました。私がいる半導体業界もDRAMやCPUなどの高価な半導体の国内メーカーは消滅しました。高価格商品で世界をリードし伸びているのは自動車メーカー位ではないでしょうか。

【目を背けたくなる現実】
半導体業界に身を置いて30年、嘗て世界シェア70%を誇った日本のお家芸DRAMは数年のうちに駆逐され台湾と韓国にポジションを奪われました。日本の技術者と製造装置メーカーが立ち上げたのですから日本の苦労が水の泡になっただけでなく後の失われた30年の一因にもなりました。それを許したのは政府や行政でもあるのですが今でもそれは変わっていません。次はもっと大きな半導体ショックが訪れます。現在、棲み分けができている半導体産業で装置や素材のメーカーは日本が優位性を保ってきましたが我々を含めそれも過去のものとなりそうです。日本は産業保護や育成については非常に冷たい国です。もしかすると政治家は日本を衰退させるために敢えて施策を行っているのかもしれません。半導体投資には大きな費用が掛かります。他国では数千億、数兆円を掛けて国家主導で投資を行いました。日本にはそんなお金はないのだと思ってきましたがコロナ禍で投じられる数十兆円の予算をみたとき資金を使う方向を産業に向けていれば、これから訪れるであろう未来を変えることができたと残念に思います。現在、半導体の基板であるシリコンウエハーは日本メーカー2社が世界シェアの60%を占めています。上位5社にChinaの会社は一社もありません。これから自動車のEV化やIoT社会への変化により半導体基板の需要も増加します。Chinaでは現在の日本メーカーの総数を上回る数を供給できる会社が立ち上がっています。数年内に品質も同等になるでしょう。また台湾韓国と異なり自国で原材料を既に持っており製造装置も他の素材も国産化をすると宣言しています。彼らが宣言したことは必ず実現します。ウエハーの次はファウンドリーを中心としたデバイス生産が本格化するでしょう。日本の消極的な電子デバイスメーカーのサラリーマン経営者は投資をせず製造を委託するでしょう。半導体の素材もデバイスもChinaが覇権を握るでしょう。安全保障上のリスクはレアメタルの比ではありません。政治家はもちろんそんなことは承知で法整備をしません。

【頼みの綱が】
それでも私は自動車産業が残るのだろうと漠然と考えていました。しかし2030年の新車販売でのEV化を宣言したことで目が覚めました。脱炭素、カーボンフリーはどこから来たのでしょうか。気候変動が本当の理由ですか。脱炭素は単にエンジンを作ってはいけないということではありません。製品を作る際に発生する炭素量も問題にされるでしょう。全産業に影響し化石燃料で発電している日本では工場の稼働はできないことにもなりかねません。結局原子力を持つ国、核兵器を持つ国、人権を制限できる国が勝つ社会になっているのではないですか。

自動車の技術=エンジンの技術です。欧州メーカーはクリーンディーゼル不正の発覚によってエンジンを捨てることにしました。彼らのレギュレーション変更にまた日本は巻き込まれたのではないですか。かつての戦争が安全保障上の理由で起こったとマッカーサーも上院の軍事外交合同委員会で証言しています。それほどの大事件が今起きているのに。毎日のように「自動車産業は550万人の雇用を支えています」のCMが流れています。自動車産業に携わる人々の危機感のあらわれでしょう。エンジンを捨てた自動車メーカーはどうなるでしょう。すべての有意性がリセットされて20年後はgoogleやappleだけでなく聞いたこともないmade in Chinaの自動車が自動運転で走っているでしょう。日本は何が残っているでしょうか、安い賃金を背景にした労働力の提供しかありません。格差は開く一方になります。

【知っていますか】
ある大手のインターネットサイトで総売り上げの過半数はオーナーが外国人になったそうです。皆さんが日本の会社だと思ってネットで購入しているその商品の販売元は日本人のお店かもしれませんがお店のオーナーは日本人ではありません。すべての国内産業においてそれが起きます。コロナ前から倒産より廃業が増えました。M&Aなどという言葉を知らなかった人たちにも企業の吸収合併は普通のことになりました。但し買う側の会社が日本の会社であってもオーナーが日本人とは限りません。積極的な投資で日本企業を買う外国人は沢山います。日本人の消極的思想の根源は安全保障を他国に預けるような敗北主義であることにあると私は思いますが負け惜しみを言ってももう間に合いません。

【これからの日本】
現代の日本人の本音は「飢えない程度に最低限の生活ができるのなら誰に食べさせてもらっても拘らない」ということでしょう。国柄が変わっても皇統が断絶しても楽に最低限の生活が提供されるなら受けるという考えが大勢なのではないでしょうか。そういう意味では日本は地政学上利用価値がありますから不満分子が扇動を起こさない程度の生活は保障され存続すると思います。

私が感じる日本人の位置が御理解いただけたでしょうか、私の接するChinaのエリートは礼儀正しく勤勉で情熱を持っています。かつての滅んだ日本人をみるようです。50年前、三島由紀夫が予言した「日本はなくなって、その代わりに、無機的な、からっぽな、ニュートラルな、中間色の、富裕な、抜け目がない、ある経済的大国が極東の一角に残るのであろう」は間違っていました。経済的大国、それは日本の位置にある他国籍国になっているかもしれません。どうすれば回避できるでしょうか。残念ながら間に合いません。一度は地に落ちたほうが残った日本人の覚醒に繋がると思います。幕末の志士は危機感から先手を打って日本を救いました百数十年経って憂国の志士は現れません。一旦地に落ちても起き上がる日本人はいないかもしれません。飼いならされた、かつては勤勉だった日本人の子孫がどのような未来を獲得するのかは予想できません。ただ祈るだけです。

現在の日本人は一生子供でいようとし親も子供でいさせようとします。親の遺産や年金で暮らしている人。親にお金の援助を受けて生きている人がやがて親になって同じように子供の面倒を見る循環が起きないと、不足した部分を誰かが補わなければならなくなります。簡単で当たり前の理屈ですが自分で立つということ。一人で立たせるということを国家ができていないのに個人ができるわけがありません。逆もまた真で国民が自立できないのだから国家が自立していないのもうなずけるというものです。本当の歴史と伝統を知らない日本人が日本を繋ぐことはできないでしょう。荒れた寺院や社を各地で見ます。BrokenWindow(割れ窓)理論が叫ばれた1980年代。ある意味日本の黄金期でした。あれから30年以上が経ってこれが日本で起こっているのが実態です。

化石燃料をフルに使って産業を維持している日本でモノ作りはできません。生産時にどれだけ炭素を使うかによって工場を稼働することが許されない世界がそこまで来ています。エンジンを捨てた自動車産業の未来は暗いです。大卒初任給ランキング日本は20番目アメリカの半分以下です。実質賃金指数が20年間でマイナスになっているのは先進国で日本だけです。日本は物価も賃金も安いので外国人観光客が来るのです。日本が好きだからじゃありません。(安いのにサービスがいいから好きというのはあると思いますが)格差は大きく広がります。格差のどちら側にいるかは気づきの差だと思います。

この記事が刺激になり、このままじゃいけないかもしれないと思う若者が出現してくれることを祈ります。

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