ヒナは拾ってはいけません。

「野の百合を見よ,労(つと)めず、紡(つむ)がざるなり」
「空の鳥を見よ、播(ま)かず刈(か)らず倉に収めず」

これらはいずれも新約聖書のマタイ伝の一部ですが、いずれも神様は これらの小さな命さえも「生かそう、生かそう」としてくださっているのであるという意味だと私は理解しています。今回のお話は、大生命(神)の知恵はある意味峻厳であり、人間知では測ることは畏(おそれ)れ多いことだと再認識した出来事についてです。

私が鳥好きで飼育経験があることを知っている知人が、飛べないスズメを保護したのでどうすればよいかと相談を受けました。いつもお世話になっている獣医さんは鳥の専門医でもあり常々「野鳥のヒナは拾ってはいけない、なぜなら放置することが生存の確率が一番高いのだ」といわれていたので迷いましたが、当日は休診日だったこともあり。一旦 預かりました。入れられていたダンボールから鳥カゴに入れてみると、幼鳥ではあるものの飛べるくらいの大きさですが羽ばたきはできても飛べません。人間が与える餌は放っておいても食べません。しようがないので、高カロリーの練り餌と、ミールワーム(小さいイモムシ)を買って、無理に口をあけて食べさせませた。

翌日の朝、先生に電話すると案の定、「保護したとことに戻しなさい」と言われました。
野生動物救護獣医師協会や日本野鳥の会のHPによると。本当に小さいヒナは巣に戻す。猫や外敵が近くにいるときには高いところにカップめんの容器のようなものに入れておく。等 書いてあるのですが、何とか一度診ていただきたいとお願いして伺いました。
先生は大きくため息をついて、「しようがないな」といいながら診てくださいましたが、普段隠れている羽の付け根に変形が見つかりました。「この子は、飛ぶことができないので親が見捨てたんだな」という診断でした。野鳥の世界では普通のことです。生きていける見込みがなければそれ以上、親はその子の面倒を見続けることはできないので放置ということになってしまいます。野生動物の世界は峻厳で人間が入り込む余地はありません。人間が、この1羽を助けたところで現実は何も変わらない、しかも助けるエネルギーは膨大です。野鳥の会のHPには巣立たせる2週間に親鳥が虫を運ぶ回数は4千回を超える。と書いてあります。親は、そこまでしても見捨てなければならないのです。

先生の大事な時間を割いていただきましたが診察料は受け取っていただけず、ヒナは預かっていただきました。その後はどうなっても、プロにお任せするのみです。私たちは助けたつもりで、獣医師にとっても鳥にとっても惨い現実を押し付けてしまったのです。診察費用を払う気持ちがあれば動物保護の募金をしてくださいといわれ、いつもカウンターにおいてある募金箱に気持ちだけお金を入れました。今回の件で、はじめに保護した知人も、私も妻もとても重い気持ちになり反省を新たにしました。たとえ安楽死ということになったら、獣医師はどんな気持ちでそれを実行するのでしょうか。先生に感謝と御礼を申し上げます。

続報。このスズメちゃんは、二日後に病院で天に帰ったそうです。先生はじめ病院のスタッフの方々ありがとうございました。

 

*画像
埼玉県環境部 通行環境事務所ホームページ
https://www.pref.saitama.lg.jp/b0501/hina-160531.html
(公財)日本鳥類保護連盟(公財)日本野鳥の会 NPO法人野生動物救護獣医師協会後援
http://www.jspb.org/hinakyosan.html

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