日本神話(15)建速須佐之男命 「なきいさち」

新年初の「やさしい古事記解説」本年もよろしくお願いします。
一人でも多くの日本を愛する人が國の始まりの物語を知る機会になれば幸いです。令和2年の初めは建速須佐之男命(たけはやすさのおのみこと)の『なきいさち』の物語から。

しかも、書き下し文をなくし、物語で説明すると昨年末に言いながら、今回は書き下し文を引用します。父神であらせられる伊邪那岐命(いざなぎのみこと)、姉神である天照大御神(あまてらすおおみかみ)との関係性が書かれている大切な部分だからです。今回の書き下し文は特に漢字の意味を追わずに読んだ方が良いと思います。

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故(かれ)各々依(おのおのよ)さし賜(たま)へる命(みこと)の随(まにま)に知(しろ)し看(め)すがなかに、建速須佐之男命(たけはやすさのおのみこと)命(よ)さし給へる國(くに)を治(し)らさずて八拳(やつか)須心前(ひげむなさき)に到るまで啼(な)き伊佐知伎(いさちき)。其(そ)の泣きたまふ状(さま)は、青山(あおやま)を枯山(からやま)如(な)す泣き枯らし、海河(うみかわ)は悉(ことごと)に泣き乾(ほ)しき。是(ここ)を以(も)って悪神(あらぶるかみ)の音(おとない)。狭月蠅如(さばえな)す皆涌(みなわ)き、萬(よろづ)の物の妖悉(わざわひことごと)に發(おこ)りき。故(かれ)伊邪那岐大御神(いざなぎのおほみかみ)、速須佐之男命(はやすさのおのみこと)に詔(の)りたまはく「何由以(なにとかも)、汝(みまし)は事依(ことよ)させる國を治(し)らさずて、哭(な)き伊佐知流(いさちる)」とのたまへば、答白(まう)したまはく「僕(あ)は妣(はは)の國(くに)根之堅洲國(ねのかたすくに)に罷(まか)らむと欲(おも)ふが故(ゆゑ)に哭(な)く」とまうしたまひき。彌(ここ)に伊邪那岐大御神(いざなぎのおほみかみ)大(いた)く忿怒(いか)らして「然(しか)らば、汝(みまし)は此(こ)の國にはな住みそ」と詔りたまひて、乃(すなわ)ち神夜良比(かむやらひ)に夜良比(やらひ)賜(たま)ひき。
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三貴子は父神であらせられる伊邪那岐大御神の神勅(しんちょく)に従って、それぞれの務めを果たすために。

  • 天照大御神(あまてらすおおみかみ)は高天原(天上界)

  • 月讀命(つくよみのみこと)は夜之食國(よのおすくに=夜の世)

  • 建速須佐之男命(たけはやすさのおのみこと)は地球(地上界)

に赴きました。が。地上担当の須佐之男命(すさのおのみこと)だけが國つくり(国土建設)の仕事がうまくいかずに自暴自棄に陥って拳(こぶし)8個分もあるヒゲに涙を滴らせながら泣いているわけです。その様子に地上の全てのものが委縮してしまって、山々の草木や海河の水は枯れ果ててしまったのです。さらには災いの神が騒々しい災禍をもたらし地上は騒然となりました。(想像ですが上の写真のようになったのでしょうか)

猛々しく俊敏で荒ぶるお働きの男神という名の須佐之男命(神)も心が折れたら仕事にならないのですね。須佐之男命が立ち直るのはいつでしょう。まだまだずっと先です。

伊邪那岐命は地上と須佐之男命の姿を見てびっくりして詰問します。お前は何をやっているのかと。須佐之男命は泣き言で答えます「私には地上建設の仕事はできません。亡母、伊邪那美命のいらっしゃる根の堅洲國(黄泉国)に行きたいと思います。」 それは素直な気持ちでしょうけれど、当然お聞きになった父神様はお怒りになり「夜見(黄泉)の国に行ってしまえと追い払ってしまいます。

前にも書きましたが建速須佐之男命の無邪気なヤンチャさ、拗(す)ねたり泣き言を吐いて涙して。なんとも人間というか日本の男の子という感じ、それでいながらすごく力のある神様なのですから、一つ一つの出来事が古代人から現代人にとってさえ示唆に富んでいて日本神話は奥深いのです。

伊邪那岐命と須佐之男命の関係を私たちに置き換えてみると。我々に与えられた使命(誰に与えられたかは人の場合もあり神(みえざるもの)の場合もあります)を果たすため色々な試練の中、様々な工夫をして最後には使命を果たす。人生を重ねて考えるヒントが書かれている。これが日本神話です。

さて地上から直接、夜見の國へ行けばよかったのですが、お話はまだまだ神々に試練を与えます。建速須佐之男命は高天原の姉神、天照大御神に、ご挨拶申し上げてから夜見の國へ行こうとして先ず高天原に向かいます。
騒動の予感。

天上界に向かう建速須佐之男命によって「山川悉(やまかわことごと)に動(とよ)み国土(くにつち)皆振(みなゆり)き」と 須佐之男命のものすごいパワーが高天原に伝わってゆくわけです。天照大御神が、これはただ事ではないと身構えられたことは当然でしょう。さて、この後の大騒動へと続きます。

本日はこれまでと致します。

 

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