日本神話(19)かちさび/詔(の)り直(なお)し/天の岩屋戸隠れ(序)

建速須佐之男命は清明心(せいめいしん)が手弱女(たわやめ)=たおやかな三女神を生んだので私の勝ちだとお考えになったのですが、そこに天照大御神のお力もあるということには思いが到らなかったのです。

一般的に 須佐之男命に起ったこの御心を勝佐備(かちさび)として慢心のような意味にとられがちですが、私は自信(確信)をもったというニュアンスだと思います。その確信がその後の行動を過激にするのですが、元々、御名の通り力強く行動力のある神様ですから、その探求心が自信を持った場合、高天原の神々には大変乱暴な行いに見えたのです。

建速須佐之男命の探求は、父神、伊邪那岐命から授かった「汝が命は、海原を知らせ」という御言葉に通じます。海原とは地上世界である葦原中国(あしはらのなかつくに)のことです。地上界で役に立つ研究をなさっていたということです。

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爾(ここ)に速須佐之男命 天照大御神に白(もう)たまわく 「我が心清明(こころあか)きが故(ゆえ)に、我が生めりし子(みこ)手弱女(たわやめ)得つ。此(これ)に因(よ)りて言(もう)さば、自(おのづか)ら我勝(われか)ちぬ」と言ひて、勝(かと)ちさびに、天照大御神の営田(みつくだ)の阿離(あはな)ち、溝埋(みぞうめ)、亦其(またそ)の、大嘗(おおにえ)聞(きこ)し看(め)す殿(との)に屎(くそ)まり散(ちら)しき。
故(かれ)然(し)か為(す)れども、天照大御神は、とがめずして告(の)りたまわく、屎如(くそなす)は、酔(よ)いて吐(は)き散らすとこそ、我(あ)那勢命如此爲(なせのみことかくし)つらめ。又田の阿離(あはなち)溝埋(みぞう)むるは、地(ところ)をあたらしとこそ我(あ)那勢命如此爲(なせのみことかくし)つらめと、詔(の)り直(なお)したまえども、猶其(なお)その悪(あ)しき態(わざ)止あ(や)まずて、轉(うた)てあり。
天照大御神、忌服屋(いみはたや)に坐(ま)しまして、神御衣(かむみそ)織(お)らしめたまう時に、其(そ)の服屋(はたや)の頂(むね)を穿(うが)ちて、天斑馬(あめのふちこま)を逆剥(さかは)ぎ剥(は)ぎて、堕(おと)し入るる時に、天衣織女(あめのみそおりめ見驚(みどおどろ)きて、梭(ひ)に陰上(ほと)を衝(つ)きて死(みう)せにき。
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須佐之男命 荒備(あらび)のくだり

天照大御神の営田の畔を壊したり用水路を埋めたり、お食事処である大嘗殿に屎尿を撒くという行いに出ます。
それでも天照大御神は咎(とが)めることをせず、各々の行為は場所と時期が異なれば有益あったかもしてない、今回のことは きっと事情があってのことだと御自らも詔(の)り直(なお)しによって、起きた現象の正しいところを観ようとされるのです。

建速須佐之男命のここまでは主に稲作についての探求でしたが 天斑馬を逆剥ぎにして神様に献上する神御衣を織る服屋の屋根から放り込み、それに驚いた織女(おりめ)の陰上(ほと)に 機織りの際、横糸を通す道具である梭(ひ)が刺さって死んでしまいます。

ここに及んで天照大御神は自らの御心も反省してみようと、お考えになり天岩戸にお籠りになるわけです。
(伊邪那美命も機織女も陰上の傷が元でお隠れになる事が興味深いです)

天斑馬を逆剥ぎについては、地上の生活に於いての肉食或いは、動物の毛皮の利用等の研究ということが当たると思います。我々人間は、自分では手を下さずともそれ等を自然に利用しています。神々に使命を託された人が、現代に於いてもその役目を果たされているわけです。

多くの解説書(者)は、須佐之男命の乱暴にびっくりして、天照大御神が逃げ隠れてしまう。としていますが、私の解釈ではそうではありません。古事記は日本人の理念が書かれていると信じていますから、天照大御神が逃げ隠れるなど信じるわけには参りません。そんな弱い心からの行いではないのです。
日本人には、どんな局面においても事物の明るい面を観、自らを反省し前向きにとらえ、進歩向上の力に変換するという力を持っている(た)のです。思い出しましょう。それが光明思想ともいうのです。

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故是(かれここ)に天照大御神 見畏(みかしこ)みて天岩屋戸(あまのいわやど)を閇(た)てて、刺しこもり坐(ま)ましましき。
爾(すなわ)ち、高天原(たかあまはら)皆暗く、葦原中國(あしはらのなかつくに)悉(ことごと)に闇し。
此(こ)に因(よ)り常夜(とこよ)往(ゆ)く。是(ここ)萬神(よろずのかみ)の聲(おとない)は、狭蠅(さばえ)なす皆涌(みなわき) 萬(よろず)の妖(わざわい)悉(ことごと)く發(おこり)き。
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天岩屋戸のくだり 序文

太陽神 天照大御神が天の岩屋戸に お籠りになったことで、天上界の高天原だけでなく、地上界である葦原中国も暗闇になり、騒がしく様々な災いが起こるようになりました。さて、こてからどうなりますでしょうか。

本日はここまでと致します。

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