若者に現実を知り考えてほしいこと「失われた30年」

本日は私の体験した「失われた30年」について若者へのメッセージとして記したいと思います。

「晴天を衝け」で地元の澁澤榮一翁が取り上げられていますが渋澤財閥は存在しません。一介の農家に生まれ千を超える株式会社や公益法人を立ち上げながらその動機は「将来のため・私欲を超えて・公共のため」であったと思います。明治人最高を説く私にとって榮一翁はまさに明治人の鑑です。現代は残念なことに「今だけ・金だけ・自分だけ」という日本人の旧来の価値観とは全く真逆の思考が浸透しています。

親ガチャという厭世的な言葉もきかれます。どこに生まれるかで人生が決まってしまうというものです。人間は生まれる国や時代に翻弄されるだけの存在なのでしょうか。我々も大東亜戦争の時代に生まれれば否応なしに戦地に赴いてその後、戦後の復興に尽くすことになったかもしれないですがそれでも前向きに生きなければならないのです。スタートはどうでも与えられた材料の中でどれだけ自分が成長したかが人生の価値だと思います。

私の30余年見聞きした狭い範囲のことを述べたいと思います。ちょうどバブルから失われた30年の期間です。なぜこうなったのかを自分なりに記します。毎度申し上げますように専門家でも研究者でもありませんので分析があっているかわかりませんが肌感覚で語ります。過去を知って未来に活かすことが大切です。同じ失敗を繰り返さないようにしなければなりません。

日本がアジア初の5大国入りをしてパリ平和会議で人種差別撤廃を提案したのが1919年。大変立派なことでしたが当然受け入れられませんでした。それが外交の分岐点だったと思います。皆さんには世界の何らかの世界的なルールが変更されるとき日本側に不利になることが多いと知りましょう。

私が社会人になったのは1985年(昭和60年)バブル期でした。丁度この年、先進国のルール変更がありました。当時の 円/ドルは 250円/ドル(円安)でした。ドル高貿易赤字に苦しむアメリカはG5(アメリカ・フランス・イギリス・ドイツ・日本)をニューヨークのプラザホテルでドル高是正合意を達成します。(プラザ合意)あっという間に円高になりました。日銀は慌てて公定歩合を下げて円を市場に流して価値を下げようとします。土地は下がらないという思い込みから金融機関から簡単に調達した資金は土地や株に流れ込んで東京の地価は3年で3倍に、借りたお金は転売で返して利益が残る。実体のないバブルが始まりました。価値のないものは上がり続けるわけがありません。政府と日銀は公定歩合を上げ資金の総量規制や土地への課税をします。「土地が下がるかもしれない」と思った企業や投資家は一斉に売りに出ますが全員が売ろうとするのですから売れません。たたき売りでも売れません。企業や投資家、証券会社は破綻しましが銀行は税金で救われました。バブルに踊って破綻したのは日本人でしたがきっかけはあのルール変更です。

傷んだ金融機関をはじめとする日本経済。ものは安くしないと売れなくなりました。物が売れないと給料も上がりません。さらにモノの金額を下げます。デフレスパイラルに落ちました。ビックマック指数というものがあります。現在日本は最低レベル390円でビックマックが買えます。韓国440円イギリス522円アメリカ621円スイス774円。「アメリカやスイスは物価が高くて大変そう」そう思ったあなたは既に敗北主義に冒されています。ビックマックが高いのは給料がそれ以上に高いことを示しているからです。自動車のようなグローバル商品が高くなったな。と思うのは日本人の給料が上がっていないからなのです。

ドル/円 相場の推移

名目GDPは1995年頃やがて日本がアメリカを抜くのではないかと言われていました。事実グラフもそんな曲線を描いています。しかしバブル崩壊(裏にルール変更)によって日本は墜落します。変わって出てきたのはChina。いつか見た光景です。大東亜戦争で日本が戦っていたのは蒋介石の中華民国でしたが気付いたらChina共産党が戦勝国になっていました。連合国は日本が押さえていたフタを開けて極東を赤化してしまいます。アメリカは日本を叩いてから朝鮮戦争が始まって気づきました。「日本に軍隊が必要だ」しかしもう軍隊は持たせないといってしまった。警察予備隊(自衛隊)を作ります。もう遅いのです。

貿易で伸びた日本が怖くなって日本を叩きました。日本はバブル崩壊して失われた30年に苦しみます。(日本の若者が苦しみを感じていないのが問題ですもっと不満を表現しましょう)気づいたらChinaがアメリカのGDPに迫っています。Chinaは日本のように甘い国ではありません。もっとしたたかで有言実行の国です。何十年何百年かかっても必ず中華を復興するでしょう。常に世界をリードしてきた自尊心を持っています。

名目(物価変動含)米ドル換算推移 2010年日本は3位へ
出典 IMF ニッセイ基礎研究所作成

GDPが日本の10倍になったとき恐らく防衛費は数十倍になっています。お隣にそんな国があって抗せますか。既に経済や食料でも競合し危険な状態です。いずれChinaの経済圏に吸収されます。良いのですか。
軍事防衛は別にして経済安全保障上も日本の産業で他国と伍していくには武器が必要です。半導体や自動車は日本の強く大切な武器でした。しかし現実を見てください。ファンドリーを除く半導体の世界シェアは1990年の50%をピークに失われた30年をなぞるように右肩下がりし現在では5%を切っており経済産業省は公式に「0」になる可能性もあるといっています。

皆さんは半導体を日本が強い分野だという幻想を抱いていませんか。そう思わされていませんか。実際はそうではありません。業界にいる私が申しあげるので間違いはありません。今のところ半導体装置とシリコンウエハを含む材料系のアドバンテージはあります。しかし近いうちにシリコンウエハの世界シェアはかつてのIC同様下降します。パワー半導体の新基板でもリードを守れるか不透明です。ここには政治が必要ですが自民党の半導体議連も経産省も対策が故意にポイントを外しているようにみえます。日本をミスリードしている目的は何でしょう。

半導体ICの世界シェア1990-2020
出典 IC Insights ファンドリ含まず

このような状況で賃金が上がる要素がありません。30年の賃金の推移を見てください。暗い気持ちになります。OECD先進38カ国のデータですが日本・韓国・アメリカだけに色を付けました。
10年刻みのほうがわかりやすいと思います。ここでの数値は 購買力平価(PPP)purchasing power parity(商品が他国ならいくらか)というものです。単に為替変動を含む名目値だともっと差がついています。この30年日本の数値は止まっていますね。これは資本主義の社会では異常なことなんです。日本以外の国はほぼすべて購買力平価(給料)が上がっています。
この低賃金、給料が上昇しない賃金のシステムを作った人たちが今、一番年金をもらっていてそれを払っているのが被害者である若者だという事実。やり切れません。

購買力平価(PPP) ベースの平均年収推移
出典 OECDーDATA
購買力平価(PPP) ベースの平均年収 10年刻み
出典 OECD-DATAを加工

しかし一方で若者にも原因があります。今の境遇で自分は満足かもしれませんが次の世代への責任を果たさないという姿勢は正しくないのです。貴方たちの行動は次の世代に繋がっていますよ。私はたまたま大東亜戦争での特攻で散華された英霊の事を調べる中で多くの死に赴く若者の言葉を知っています。彼らは戦争に勝とうなどと思って散ったのではありません。自分たちの行動は戦争が終わったときの講和の条件に影響を与える。後世を担う若者にメッセージを与えることができると信じて逝ったのです。私たちは彼らの遺志に応える義務があるのです。だから敗北主義は捨てましょう。今からでも私たちの後の世代に何を残せるか考えて行動しようではないですか。

大学ランキング世界・アジア/論文数
出典 高校生新聞2022 進研アド2021 毎日新聞

大学のランキングで日本の大学が順位を下げています。英米が相変わらずトップ20を占めていますが20位付近に香港大学・北京大学・精華大学のChina系大学が入っています。つまりChinaの優秀な頭脳はトップの大学に進み日本の東京大学に来て院生になっているような人材はその次の人たち、さらに日本の私学の院生はその下、日本人はというとさらにその下というのが現実なのです。論文数もアメリカを抜いてChinaが一位になりました。数十年後もう日本からはノーベル賞受賞者が出ない可能性があります。

つい先日、光触媒の発見者である藤井東大特別栄誉教授が研究員ごとChinaの大学に移籍するニュースが話題になりましたが日本で研究をすることは2重の意味で困難があります。研究費用が国から拠出できません。未来への投資より年寄り政策です。もう一つは全ての研究は軍事につながるというアレルギー。日本人の自虐的思想。日本人は富んではいけない軍事的に力を持ってはいけないという潜在的に刷り込まれた意識があることです。Chinaに行けば豊富な予算や環境で研究開発ができる。頭脳が流出してもそれは日本のせいですね。Chinaの仰る通りです。

それでは日本に残った皆さんどうしますか。私は零細企業のトップとして皆さんに申し訳ありません。安い給料で一生懸命働いてもらっていますからね。経営者の責任を感じていますよ。しかし同時に物足りなさも感じています。皆さん今の自分に満足してしまっていますよね。それは皆さんだけじゃない。欲を出すことは悪いことではないのですが、もっと金銭的に豊かになりたい。もっと技術や知識を高めたい。もっともっと・・・という欲がないと思います。

皆さんの前に今、とても大きなルール変更が起ころうとしています。「脱炭素」社会です。「カーボンフリー」です。大変な矛盾がありますが世界的な流れに抗うことはできません。日本もそのルールに従わなければならないでしょう。日本の自動車産業は世界誇る産業でしたが自動車の歴史は内燃機関(エンジン)の歴史でもあります。優れた内燃機関を作り続けること。それを効率よく伝達する技術を日本は100年かけて作ってきました。しかし今回のルールは100年のアドバンテージをゼロにするものです。「電化した自動車以外は作れないようになる」ことは多くなアドバンテージを日本が失うことになるのです。欧州は何でこんなことを言い出したのか。クリーンディーゼルの排気ガス不正問題が無関係ではないでしょう。欧州が達成できなかった技術を日本はクリアしました。ルール変更です。現段階でハイブリットはChinaと日本では電化に含むとしていますが、やがて全ての内燃機関がNGになるかもしれませんし輸出ができないだけで大打撃です。日本で500万人の雇用が失われる可能性があると危機感を持つトップが言っているではないですか。

もう一つ「グリーンエネルギーで生産した製品しか輸出できない」という動きも進むでしょう。電源構成が火力中心の日本で作った製品は輸出できなくなります。太陽光発電は稼働率14%です。平均すると1日で3時間しか発電していません。日本中をパネルにしても賄えない。地熱や風力を使ってもバックアップ電源がないとブラックアウトの危険性がある。八方ふさがりですね。どう打開していきましょう。日本に知恵と力が残っているでしょうか。若者に期待するのは無責任でしょうか。でも生きていかなければならないのは若者です。

各国 電源別発電量構成
出典 資源エネルギー庁
自動車 EVショック 脱エンジン
出典 東洋経済オンライン 毎日新聞

欲を出すことをためらう若い人に言いたい。欲を出すことは恥ずかしいことですか。悪いことですか。とんでもないことです。「希望は活きる力の源泉」私はいつも言っています。希望を実現するためには絶対に欲が必要なのですつまり生きるためには意欲が必要なのです。「自分だけ」をまず捨てましょう。次に「今だけ」も捨てましょう。「金だけ」は自分のためのお金の事じゃありません。人のためみんなのために必要な「お金」です。

パラリンピック水泳で銀メダル2つを獲得した山田美幸さん14歳。重度の障害S2。両腕がない脚は曲がり長さが異なる。そんな美幸さんにお風呂で溺れぬようお父さんが水泳を習わせたそうです。今はそのお父さんも亡くしました。でもニコニコ心からの素敵な笑顔で他人に接しています。私は今回のオリンピックパラリンピックで最も感動(言葉では表せない)と勇気をもらったのは美幸さんでした。「おめでとうございますそして有難うございます」

私はこの世に完璧な人間はいないという意味で(逆説的に)「どんな人も全員が健常者」だという持論を持っていますが、それぞれが自分を成長させるための負荷を色々設定して人生にチャレンジしている。思い負荷をかけて人生にチャレンジしている美幸さんの座右の銘は澁澤榮一翁の「無欲は怠惰の基である」 だそうです。14歳の彼女のこの言葉を若者であるあなた。日本人であるあなたはどう受け止めますか。

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